AWS 導入事例
サッポロホールディングス株式会社 様
DX を加速させる 共通基盤を、AWS 移行で実現
~ 2つの プラットフォーム設計と 移行方式の パターン化で支えた 全社プロジェクト ~
2025/06/17
サッポロホールディングス株式会社 様(以下「サッポロホールディングス」、敬称略)は、2025年3月に、国内グループ全システムの AWS 移行を 完了しました。
約 100 システム、20社を超える パートナー企業が関わる 大規模プロジェクトを滞りなく完遂した 今回の取り組みについて、企画検討から移行、その後の運用まで 一貫して担当している 株式会社野村総合研究所(以下「NRI」)の担当者を交え、お話を伺いました。
- 写真左から、サッポロホールディングスの 幕田 智之 氏・伊藤 淳 氏、NRI の 大石 将士・西村 凌。
導入の背景・経緯
DX 推進を掲げた 中期経営計画を実現するための インフラ刷新
サッポロホールディングスでは、2020年に発表した 中期経営計画「グループ経営計画2024」において、DX 推進を重要施策の 一つに掲げました。しかし 当時の インフラ環境は、仮想基盤を活用した 基幹システムのための プライベートクラウドで、AI や データ利活用といった 新たな取り組みを進めるには 機能面・環境面の制約がありました。加えて、インフラ環境についての課題も顕在化してきており、将来を見据えて インフラの刷新が求められる状況となっていました。こうした背景から、ビジネスや 社会環境の変化に柔軟に対応できる 効率的な IT 基盤と、データと デジタル技術を活用できる環境の両立に向けて、本格的な検討が始まりました。
今回の プロジェクト全体を統括した サッポロホールディングス IT統括部の 伊藤 淳 氏 は、当時を 次のように振り返ります。
「課題は 大きく 二つありました。第一に、利用できる サービスと 資産管理に関する問題です。プライベートクラウドは 自社専用の環境であるため、例えば データベースの 新しいバージョンを利用する際には 事前に検証が必要で、本来であれば より早く最新の技術を活用したいのですが、どうしても時間を要する点に課題を感じていました。また、外部ベンダー提供の プライベートクラウドの他に 当社資産の機器が 一定数あり、管理や更改にも 手間が かかっていました。第二に、DX を推進するための 柔軟な環境が整っていなかったことです。既存の基幹システム向けの環境とは別に、より自由に新しい取り組みに チャレンジできる環境が必要だと考えていました」
こうした課題を踏まえ、パブリッククラウドへの本格的な移行検討が始まりました。複数の クラウドサービスを比較検討した結果、他社での導入実績も多く、多様な サービスが提供されている AWS が最適と判断され、2022年には 概念実証(PoC)を実施。これを経て、グループ全体で運用する 約 100 の システムを対象とした AWS 全面移行プロジェクトが スタートしました。グループ会社を含む 全社規模での取り組みとなり、20社以上の パートナー企業が関与する 大規模な プロジェクトとなりました。
- サッポロホールディングスの 伊藤 淳 氏。
導入の概要・ポイント
「チャレンジ重視」「安定重視」の 2つの プラットフォーム共通基盤上に併存
プロジェクト開始当初、サッポログループでは AWS の知見が不足していたことから、NRI は 技術支援の第一歩として、全12回にわたる 勉強会と ハンズオンセッションを実施しました。クラウドの基本的な概念から 主要サービスの利用方法まで、段階的に学べる機会を設け、IT部門内での 理解と スキルの底上げを図りました。
「当時は まだ AWS に触れたことのない方が多く、まずは『そもそも パブリッククラウドとは 何か?』というところから始めました。Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)や Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)といった 代表的なサービスについても、座学に加えて実際に操作していただくことで、現場の感覚として クラウドを理解していただけるよう 工夫しました」と、プロジェクトに携わった NRI の 大石は 振り返ります。
また、クラウド活用に関する 社内ルールが未整備だったことから、NRI は クラウド活用ポリシーの策定も支援しました。グループ内での統一的な運用方針を整え、以降の環境構築や移行方針に 一貫性を持たせるための土台を築いています。
その後、DX 施策を迅速に展開できるよう構築されたのが「チャレンジ重視プラットフォーム」です。AWS 上に 柔軟な環境を用意することで、新規施策や PoC を 従来よりもスピーディに展開できるようになりました。一方、基幹系システム向けには、セキュリティと 運用安定性を重視した「安定重視プラットフォーム」を設計しています。これら二つの異なる性質の プラットフォームを 共通基盤上で併存させる構成をとることで、異なる要件を持つ システム群を 一元的に運用できる 独自のアーキテクチャが完成しました。
「チャレンジ系と 基幹系で 求められる要件は まったく異なります。そこで、柔軟性を優先する領域と 統制を効かせる領域を 明確に切り分け、それぞれの ニーズに応えられる構成を採用しました。セキュリティや ネットワーク管理についても、必要な ガバナンスを担保しながら、それぞれの特性に応じた運用が可能になっています」と 大石は話します。
移行対象となる 約 100 システムについては、あらかじめ 7つの 移行パターンを定義し、それぞれの システムに応じた方式を パートナー企業が選定できる仕組みを整備しました。方式ごとに NRI と システム担当の 役割分担や 作業範囲を明確にし、移行プロセスを “サービス化” することで、効率的 かつ 安定した推進を 実現しています。
運用面においては、AWS Identity and Access Management (IAM)や AWS Security Hub、AWS Organizations といった AWS ネイティブサービスを活用することで、セキュリティと効率を両立。各アカウントの統制、監視、アラート運用の仕組みも整備され、現場ニーズに柔軟に応え、ガバナンスを効率的に維持する IT基盤が完成しました。
- 株式会社野村総合研究所(NRI)の 大石 将士。
- 株式会社野村総合研究所(NRI)の 西村 凌。
導入の効果、今後の展望
基幹システムの データを活用した DX 施策の実現に向けて
2025年3月、約2年半にわたって進められてきた AWS 移行プロジェクトは、途中で システムの棚卸しを実施した結果、最終的に 約90システム・約390台の サーバーの移行を完了し、無事に クロージングを迎えました。各システムについては、週単位で 構築・検証・切替を行うという 綿密な計画のもと、当初スケジュールから 3カ月 前倒しでの完了を 実現しました。
移行の成果として、コスト面では プロジェクト期間中に 円安が進行したにもかかわらず、AWS 利用料は 当初の想定を下回る結果となりました。また、運用設計の高度化によって、複数の ベンダーが関与する マルチパートナー環境においても、安定した運用が確保されています。
今回の移行を通じて、従来の オンプレミス中心の発想から、クラウドネイティブな考え方への シフトも進んでいると、サッポロホールディングス IT統括部の 幕田 智之 氏 は 語ります。
「すでに AI を活用した取り組みも始まっており、いくつかの DX 施策は AWS 環境上で 本格的に運用が スタートしています。ニュースリリースや TV取材に つながるなど、外部からの注目も高まっていて、対外的な成果としても 手応えを感じています。基幹システムの データも同じ基盤上の データベースに集約されているため、今後は それらを より有効に活用し、業務改革や 新たなビジネスの創出にも つなげていきたいと考えています。運用面での さらなる改善や自動化も進めたいですし、社内からの新たなニーズにも 柔軟に応えていく必要があります。今後も NRIさんと連携しながら、より良い環境をつくっていきたいと思います」
- サッポロホールディングスの 幕田 智之 氏。
企業紹介
サッポロホールディングス株式会社
- Sapporo Holdings Limited
サッポログループは 1876年の北海道開拓使麦酒醸造所設立によるビール製造開始以来、原料にこだわったモノづくりへの真摯な取り組みを続け、お客様にご満足いただける商品・サービスの提供に努めています。ビール事業をはじめとして、総合酒類、食品・飲料、外食、不動産へとすそ野を広げ、ご提供する商品・サービスを通じたお客様との「対話」をもとに、イノベーションや品質の向上を追求しています。
関連する AWS の 製品、ドキュメント
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)は、AWS クラウドで オンデマンドの スケーラブルな コンピューティングキャパシティを提供します。Amazon EC2 を使用することで、ハードウェアの コストを削減できます。これにより アプリケーションの開発と デプロイを 迅速に行うことができます。Amazon EC2 を使用すると、必要な数(または それ以下)の 仮想サーバーの起動、セキュリティ および ネットワーキングの構成、ストレージの管理ができます。月次 または 年次の処理や ウェブサイトの トラフィックの急増など、計算量の多い タスクを処理するための キャパシティの追加(スケールアップ)も可能です。使用量が減った場合は、キャパシティを 再び減らす(スケールダウン)こともできます。
Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)
Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)は、AWS クラウドで リレーショナルデータベースを 簡単にセットアップし、運用し、スケーリングすることのできる ウェブサービスです。業界スタンダードの リレーショナルデータベース向けに、費用対効果に優れた エクステンションを備え、一般的な データベース管理タスクを管理します。
AWS Identity and Access Management (IAM)
AWS Identity and Access Management (IAM)は、AWS リソースへの アクセスを 安全に管理するための ウェブサービスです。IAM を使用すると、ユーザーが アクセスできる AWS の リソースを制御する アクセス許可を管理できます。IAM を使用して、誰を認証(サインイン)し、誰に リソースの使用を認可する(アクセス許可を付与する)かを制御します。IAM は、AWS アカウントの認証と認可を制御するために 必要な インフラストラクチャを提供します。
AWS Organizations
AWS Organizations は、 AWS リソースの拡大と スケーリングに合わせて 環境を 一元管理 および 管理するのに役立ちます。Organizations を使用すると、アカウントの作成、リソースの割り当て、ワークロードを整理するための アカウントの グループ化、ガバナンスへの ポリシーの適用、すべての アカウントに 単一の支払い方法を使用した請求の簡素化が 可能になります。
AWS Security Hub
AWS Security Hub は、AWS の セキュリティ状態を包括的に把握し、セキュリティ業界標準と ベストプラクティスに照らして AWS 環境を評価するのに役立ちます。Security Hub は、AWS アカウント および サポートされている サードパーティ製品間で セキュリティデータを収集し AWS の サービス、セキュリティの傾向を分析し、最も優先度の高い セキュリティ問題を特定するのに 役立ちます。
組織の セキュリティ状態を管理しやすくするために、Security Hub は 複数のセキュリティ標準を サポートしています。これには、AWS によって開発された AWS Foundational Security Best Practices (FSBP)標準、および Center for Internet Security (CIS)、Payment Card Industry Data Security Standard (PCI DSS)、米国国立標準技術研究所(NIST)などの 外部コンプライアンスフレームワークが含まれます。
関連リンク・トピックス
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・NRI コラム / DX 時代の システム導入最前線 / 目的から考える レガシーシステムの クラウド移行戦略(大石 将士) ※NRIサイトへ
NRI の AWS 導入事例・特別対談
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野村総合研究所(NRI)は、AWS プレミアティア サービスパートナーです。多数の顧客エンゲージメントや 幅広い経験、顧客との フィードバックや サクセスストーリーの収集を通じて、2013年に 日本で初めて認定されて以降、12年連続で AWS プレミアティア サービスパートナーに 認定されています。
また NRI は、「AWS 金融サービス コンピテンシー」 「AWS DevOps コンピテンシー」 「AWS 生成 AI コンピテンシー」 「AWS レベル 1 MSSP コンピテンシー」 「AWS 移行 コンピテンシー」 「AWS セキュリティ コンピテンシー」 「AWS Oracle コンピテンシー」 「AWS SAP コンピテンシー」を取得しており、コンサルティング、システム開発・運用、アナリティクス、生成 AI といった 幅広い分野で、お客様の課題解決に AWS を活用し、ビジネス推進を サポートしています。