AWS 特別対談:
ナッジ株式会社 様
金融の新しい体験をフルスクラッチで共創
- 2022/02/22
ナッジ株式会社 様(以下「ナッジ」、敬称略)は、FinTech で未来の金融体験を創造することを目的として 2020年2月に設立されたスタートアップ企業です。そのファーストプロダクトとして、スマホアプリから申し込める次世代の提携クレジットカード Nudge(ナッジ)が、2021年8月にリリースされました。
今回は、ナッジの代表を務める 沖田 貴史 氏に ご参加いただき、プロジェクトのスタートから 10カ月あまりでサービスインに至った取り組みについて、システムを共同開発した株式会社野村総合研究所(以下「NRI」)の 新井 雅也と 吉竹 直樹を交えて、オンラインで対談を行い、お話を伺いました。
チャレンジャーバンクとして 金融変革の中心地に
- 起業のきっかけやパートナーに NRIを選んだ理由をお聞かせください。
沖田: SBIグループ等で 20年近く EC や FinTech に携わり、2016年からは米国 Ripple 社とジョイントベンチャーで立ち上げたブロックチェーンの会社の経営に携わってきました。その間、インターネットの発展と共に世の中の産業は大きく変わりましたが、金融の世界は意外と動きが遅い。情報産業である金融は、本来、DX(デジタルトランスフォーメーション)との相性が良いはずなのですが、伝統的金融機関は多くのしがらみがまとわりついていて、たとえ意思があったとしても大胆に変わることが難しいのです。「それならば」と、自ら新しい会社を立ち上げることにしました。私たちがチャレンジャーバンクとして新たな試みをすることで、伝統的金融機関の中で変革を志す方の背中を押すことができれば、社会全体にとっても良いことではないかと考えたのです。
NRIと SBIグループは、共同で幅広く事業展開をしていることもあり、以前から接点がありました。銀行間ネットワークをブロックチェーンで構築したときは、その上に乗るサービスを一緒につくったのですが、NRIがつくったとは思えないほどサクサクした UX で(笑)。そのときの経験から品質や納期に対する高い信頼感もあり、今回もご協力いただくことになりました。
新井: 私自身もこれまでクレジットカード業界に深い知見があるわけではなかったので、非常にチャレンジングな仕事でした。「業務を理解して、システムを理解して」と、何もかもが新鮮でした。
吉竹: 私は今回初めてスタートアップ企業の方と仕事をさせていただき、そのスピード感、意思決定の早さに驚きました。ナッジの皆さんと一緒になって仕様を検討するなど、これまでにない良い経験をさせていただいたと思います。
沖田: お二人が「システムをつくるのではなく、サービスをつくる」という基本のところからベクトルを共有し、アプリ機能や UI/UX などについて、社員と一緒に検討してくれたのはとてもありがたかったです。率先して DevOps の文化を社内に醸成していただきましたし、会社の垣根を越えた本当のチームとして仕事を進めることができました。
新井: そう言っていただけると、ありがたいですし、嬉しく思います。
- ナッジ株式会社 代表 沖田 貴史 氏
※ FinTech(フィンテック):金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、銀行・証券・保険などの金融分野に、IT 技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。
※ ブロックチェーン:「一定期間の取引の記録」をまとめた「ブロック」を「チェーン(鎖)」のようにつなげて、順次取引の記録を追加していく仕組みのこと。ブロックチェーンは、データの改ざんが事実上不可能といった特性がある。
※ UI/UX:UI は User Interface(ユーザー・インターフェイス)の略称で、ユーザーと製品やサービスの 接点・接触部分(インターフェース)。UX は User eXperience(ユーザー・エクスペリエンス)の略称で、ユーザーの体験価値のこと。
※ DevOps:開発部門(Dev: Development)と 運用部門(Ops: Operations)が協力・連携し、より迅速にシステムの開発・稼働・見直しを行う体制や方法論のこと。
AWS や SaaS を活用し、DevOps で高速開発
- 開発に当たってのお話をお聞かせください。
新井: 今回は、クラウドありきで検討して、我々の知見が豊富な AWS(Amazon Web Services)をプラットフォームに選択しました。このあたり、昔のシステム開発と比べて、クラウドの恩恵を感じることはありましたか?
沖田: スケーリング(拡張)ができるという部分が、やはり大きかったです。チャレンジャーバンクの観点で言えば、最初のサービスはこれで十分でも、その先に広げるにはこちらの方が良いという場合があります。そんなとき、単純に目的地に近いというだけでなく、マイルストーンや、その先のゴールまで含めて、事前に総合的な検討を行うことができる。そういったことを含め、AWS が提供している個々のサービスを新井さんたちが理解した上で提案してくれるので、こちらとしては安心して任せることができました。
新井: 目指すゴールのコンセンサスがとれた後は、サービス構成の最適化などの技術的な部分は NRIにまかせていただけたので、とてもやりやすかったですし、自分自身も ものすごく成長できたと感じます。同時に、より良いものをつくりたいというマインドも強くなりました。
吉竹: それは私も感じました。アプリの仕様についても、UX と開発工数を考慮した提案を受け入れていただけることも多く、それらが短い期間内にファーストローンチを迎えることができた理由の一つだと思います。
沖田: そこはお二人が技術的な専門家であることはもちろん、もう一つ前の段階のベクトルがきちんと合っていて、ゴールを明確に認識できていたことが大きいのだと思います。それさえできていれば、専門分野はお二人のほうが圧倒的に優れているわけですから、そこは尊重したいと考えていましたし、むしろ理想に向かってみんなを引っ張っていくくらいのマインドを、お二人から感じました。
新井: ナッジさんが今後成長していくためにも、トライ&エラーをたくさん経験することが絶対に必要だと考えていました。一回で OK となる部分もあれば、利用者からのフィードバックを受けて何度もやり直さないといけない部分もあるので、いろいろと試しながら進めることができるシステムづくりは最初から意識していて、そこに AWS がうまくはまったと思います。
吉竹: 実際、これまでにないスピードで開発と修正を繰り返すことができました。リリースが自動化されていない環境では、リリース手順に神経を使って作業するため、どうしても改善が遅くなってしまいます。今回は、AWS のサービスを利用した CI/CD 環境を構築し、「つくって運用してみて、何かあればすぐに修正してリリースする」という DevOps のサイクルを実現することができました。
また、SaaS を活用することで、汎用的な業務について要件定義やヒアリングを省略化して、ナッジさん特有の業務を実現するところにフォーカスして必要なものをつくり込むという動き方ができたことも、少ない人数でやり遂げられた要因だと考えています。
- 株式会社野村総合研究所(NRI) 吉竹 直樹
※ SaaS:Software as a Service の略称で、パッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由のサービスとして提供・利用する形態のこと。
※ CI/CD(継続的インテグレーション / 継続的デリバリー):アプリケーションのリリース頻度を高めるための手法のこと。CI(Continuous Integration)は、ビルドやテストを自動化する手法。CD(Continuous Delivery)は、デプロイ(運用環境への配置)から リリース準備までの作業を自動化する手法を指す。
金融を民主化し、ユーザー起点のサービスを届けたい
- 今後ナッジさんが目指すのは、どのような世界でしょうか。
沖田:「FinTech で金融のサービスがオープンになって、誰でも参入できるようになります」という話をよく聞きますが、それは Tech(技術:Technology)の人に開放しただけであって、あまねく開放しているわけではありません。それに対して、今回の私たちの仕組みは、誰にでも金融体験を提供できるという仕組みなので、金融の民主化であり、エンベデッド・ファイナンス(組み込み金融)を本格的に進めていくためのアプローチの一つです。ですので、こういったところを多くの方にしっかり届けていく。日本はまだまだ現金派の方が多いですが、これを変えるためにも、これまでのようなお得一辺倒ではない新しい金融体験をつくっていきたい。
その先は、決済だけではない、個々の人の課題を解決できるような総合金融サービスを目指しますが、ライセンスを全部自分たちでとる必要はありません。今回は自分たちがライセンスホルダーですが、乗っかる側になる可能性もある。ユーザーを起点として、一番良いサービスを届けられる座組み(プロジェクト体制)をとりたいと考えています。
吉竹: ナッジさんとお仕事を始めたときには、エンベデッド・ファイナンスという単語の意味さえ分かっていなかったのですが、後から振り返ると、「なるほどこういうことか」と実感できました。日本でも世界でも、明確にエンベデッド・ファイナンスを打ち出したビジネスをしている会社はまだ少ないと思うので、ナッジさんがエンベデッド・ファイナンスの先駆けのような企業になると嬉しいです。
新井: 現在リリースされている Nudge(ナッジ)では、クラブ(提携先)という概念で、クレジットカードを通して自らが金融サービスを提供する世界が築かれています。これは全く新しい体験ですし、その体験を最大化できるように、これからも Nudge の進化に関わっていきたいと思っています。
沖田: NRIには、これからも専門家としての知見を期待しています。課題が生まれたときに、クラウドとナッジの両方の事情を理解して判断できるのは、技術者としての専門性ですから、そこは私たちが大いに期待する部分です。同時に、1ユーザーとしての目もこれまで通り持ち続けてほしい。ユーザーとつくり手を行ったり来たりしながら完成させていく仕事でもあるので、専門性は保ちつつも、ユーザーとしての素朴な感性も忘れないでください。今回はそこがうまくいったと思いますし、今後も期待しています。
- 株式会社野村総合研究所(NRI) 新井 雅也
※ ○○ の民主化:専門的な知識・能力を持った人材だけが特定の技術やサービスの活用に関わるのではなく、より一般的な人も活用の取り組みに参加できるようにすること。
※ エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance):金融以外のサービス提供企業(非金融企業)が、様々な既存サービスに金融サービスを組み込んで提供すること。代表的なサービスとして、EC サイトが提供する「後払い(決済)」サービスなどがある。「組み込み金融」「埋め込み金融」とも。
企業紹介
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ナッジ株式会社
- Nudge Inc.[設立] 2020年2月12日
[OUR MISSION] ひとりひとりのアクションで未来の金融体験を創る
- 金融の世界でも「貯蓄から資産運用へ」「現金からキャッシュレス」など合理的だと分かっていても、なかなか取り組みが進んでいかないことも多くあります。これを「惰性だ」と批判するのではなく、ありのままを見つめ、既成の枠にとらわれないやり方で物事を考える創造性を発揮することで打破していきたいと考えています。
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野村総合研究所(NRI)は、AWS プレミアティアサービスパートナーです。多数の顧客エンゲージメントや幅広い経験、顧客とのフィードバックやサクセスストーリーの収集を通じて、2013年に日本で初めて認定されて以降、10年連続で AWS プレミアティアサービスパートナーに認定されています。
また NRIは、「AWS DevOps コンピテンシー」のほかに、「AWS 金融サービスコンピテンシー」「AWS 移行コンピテンシー」「AWS セキュリティコンピテンシー」「AWS SAP コンピテンシー」「AWS Oracle コンピテンシー」を取得しており、コンサルティング、システム開発・運用、アナリティクスといった幅広い分野で、お客様の課題解決に AWS を活用し、DX の実現に取り組んでいます。
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